ブドウは全て自分たちで栽培する次世代のネゴシアン、フレデリック・マニャン。自分で畑を捜し契約し、栽培は全て自分のチームで行う。現在栽培をビオディナミに転換している。ブルゴーニュの多様なテロワールを引き出すためにヴィラージュクラスでも最低40年の古樹を使用。限りなくドメーヌに近いネゴシアン。
【フレデリック・マニャン】
ボーヌの醸造学校を卒業後、フランスのみならず、米国のカレラなど世界各国でワイン造りを学び、1995年に自分の理想のワインを造るため、自らの名前を冠したネゴシアンを設立したフレデリック・マニャン。従来のネゴシアンとは異なり、ブドウ栽培も行う新世代ネゴシアンの先駆者である。ネゴシアン設立時にはDRC、ルロワ、コント・ラフォンなど超一流ドメーヌのみが使用している樽、フランソワフレール社と取引した。普通、フランソワフレール社が無名の一人の若者と取引することなど奇跡としか言いようがない。フレデリック・マニャンは社長にこう言ったそうだ。「あなたのところの樽を俺がもっと有名にしてやる」と。そのビッグマウスぶりも数年後の彼の活躍を見ればあながち嘘ではなかった。2000年初頭に一気にブレイクし、限りなくドメーヌに近いネゴシアンとして高評価され、ブルゴーニュの若きスターとして注目されたのは周知のことである。
今でも彼はマウンテンバイクで朝から各畑を回っている。畑選びで彼が最重要視するのがブドウの樹齢だ。40年以上の古樹のみを厳選する。テロワールを最大限引き出すには樹齢が高く、根のしっかりと張った樹を選ばなければならない。栽培のスタイルもできる限り【コルドン】を選ぶ。これは同じ垣根造りの【グイヨ】に比べて【コルドン】は収量が低く品質に差が出るからだ。細かに観察し、目を付けた畑には直接交渉を持ちかけ、所有者がバルクワインとして販売する金額を上回る代金で契約する。ネゴシアンであることのメリットを最大限に生かし、ワイン造りを行っている。
ブレイクした2000年初頭のフレデリック・マニャンのワインは、樽香が強く濃密でパワフルなワインだった。だが数年前から彼のワインスタイルが徐々に変わっていった。繊細でエレガントなワインに変化していったのだ。それはテロワールの特性を十分に引き出そうした結果であった。
フレデリック・マニャンのワインに変化をもたらしたのは、醸造長としてジャック・デュヴォージュ(その後ラルロの醸造長の経て、2015年にクロ・ド・タールにヘッド・ハンティングされた若き凄腕醸造家)が加入したことも大きかったのは想像に難くない。現在はルロワにビオディナミを導入した栽培責任者を迎え入れ、畑をビオディナミに転換している。ルロワの大ファンであるフレデリックは更なる極みを追求している。
【アンフォラによる熟成】
2015 年からは一部の畑でアンフォラ(素焼きのツボ)での熟成を開始した。より外部からの影響を受けない容器として始めたが、土から産まれたブドウを土から出来た容器で熟成させることにより、ワインのエネルギーを強く感じたという。今後アンフォラでの熟成を増やしていくという。
2017年7月フレデリック・マニャンが来日した際、アンフォラで熟成したキュヴェ、バリックで熟成したキュヴェ、アンフォラ熟成とバリック熟成をブレンドしたキュヴェの3つのサンプルを試飲させてもらった。印象的だったのはアンフォラでの熟成。エレガントで瑞々しくピュアな果実味だった。ただヴォリューム感には欠け、線が細くワインの骨格が弱かった。個人的にはアンフォラとバリックをブレンドしたキュヴェが一番バランスよく綺麗に仕上がっていると感じた。しっかりとした骨格があり、濃密だが瑞々しい果実味に溢れていた。来日時にフレデリックは「今は樽香のするワインは飲みたくない」と語っていた。2016年のヴィンテージから新樽は一切使わなくなった。
現在アンフォラでの熟成を行うのは100%ビオディナミに転換できた畑のみ。転換中の畑は古樽のみで熟成している。ラベルに金色の太陽のマークがあるのはビオディナミの畑でアンフォラ熟成されたキュヴェである。
【フレデリック・マニャンの2020年ヴィンテージ】
開花は早かったが、遅霜がなかったので2020年は恵まれていました。歴史的に見ても、かなり早い開花だったので、その分、収穫も早くなりましたが、開花から収穫までは100日近くあり、ブドウのハンギングタイムは十分でした。糖度は高くなりすぎず、アルコール度数はほとんどのワインで13〜14%程度となり、酸は果実の成熟が進んでも落ちる事がない酒石酸を多く蓄えていました。暑い年でも、素晴らしい品質の酸味を確保したのです。ブルゴーニュらしい美しい酸のお陰で、上品さ、ブルゴーニュらしさを得ています。また、果汁が例年に比べ少なく、凝縮感がありました。色も濃かったので、余計な介入をせず、少なめのルモンタージュにとどめており、繊細な扱いが必要な年でした。
早い生育で暑さを避けたブドウは酒石酸を蓄え、ブルゴーニュらしい繊細なバランスを手に入れたブルゴーニュ好きのための美しい年となりました。
【フィサン・ブラン】
フィサン村の斜面上部にある畑で沖積土壌にジュヴレ・シャンベルタンらしい酸化鉄を含んでいる表土の下に厚い石灰岩盤がある区画。ピノ・ノワールには痩せ過ぎていて相性が良くないので、昔からシャルドネが植えられてきた。フィサンで造られるワインのうち97%が赤ワイン。白ワインは僅か3%。非常に珍しいフィサンの白。もしジュヴレ・シャンベルタンで白ワインが造られていたらこんなワインになっていたのかもしれない。一飲の価値ある1本。白/ACフィサン
【2019年ヴィンテージの試飲】
柑橘系果実、ミネラル、ハーブ、ハチミツなどの香りがグラスから漂う。エレガントで爽やかな果実味にしっかりとした酸がバランスよく広がる。奇麗な酸がこのワインの支柱となっている。一昔前まではいかに熟度の高いブドウを収穫するかだったが、近年は温暖化のため熟度の高さより、いかに酸を残すかの方が課題となっている。2019年は猛暑の年だったが、このワインは美しい酸を内包している。アフターにはレモンを想起させる酸が心地よく、ついつい杯を重ね、食欲を誘う。文句なしの旨さである。フレデリック・マニャンの匠を感じる秀逸な1本。(2023年8月中旬試飲)