【ルクレール・ブリアン】
ルクレール・ブリアンは1872年にキュミエールに設立されたメゾン。4代目のベルトランは1955年にシャンパーニュで初めて有機栽培を導入した人物。ベルトランの息子、パスカルはルドルフ・シュタイナー(ビオディナミの創始者)を学び、父の考えを更に進化させていく。しかし2010年、突然の死去。残された4人の娘は若過ぎてメゾンの存続は困難となり、3人に譲渡された。その3人は醸造家エルヴェ・ジェスタン、元モエ・エ・シャンドンのディレクター、フレデリック・デメット、そして米国の資本家。こうして2012年、エルヴェ・ジェスタンを中心とした新星ルクレール・ブリアンが誕生した。
シャンパーニュのカリスマ的醸造家、エルヴェ・ジェスタン。1982年からデュヴァル・ルロワで20年以上にわたり醸造長を務め、栽培醸造コンサルタントとして国際的に活躍した人物。自らの名を冠したシャンパーニュもリリースしている。彼の栽培、醸造法はビオディナミのみならず、ホメオパシーの思想を取り入れ、一部のシャンパーニュマニアからはカルト的人気を誇っている。現在全てのコンサルタント業を辞め、ルクレール・ブリアンのオーナー兼醸造責任者となった。彼のワイン造りの考えはとにかくユニークで下手するとカルト的にも思える。以下彼の発言を抜粋。
「醸造、微生物、地質、発酵物理学を学び、経験すれば美味しいワインを造ることはできる。しかし真に偉大なワインはそれだけでは造れない」
真に偉大なワインを造るには醸造学ではなく、『善意』を持って全ての行程を行い、ブドウを通して地球、宇宙のエネルギーを得る事だと。
「例えば、還元も善意の欠如。ワインの状態を注意深く感じ、ワインが求めることをしていれば還元する事はないのだから」
「瓶詰め前にはワインの一部を抜き取り、ボトルに触れさせタンクに戻す。この作業でワインはガラスを経験し、瓶詰めの準備ができる。瓶詰めはブドウの花が咲いてから7月に行う。これも善意。咲く前に瓶詰めしてしはいけない。それではワインはブドウ樹と離れる準備ができていない」
「このような少しの善意の繰り返しでワインのストレスは減り、ワインが持つ情報が素直に味わいとなって出てくる。これが純粋さなのだ」
醸造所にはアンフォラ、ウフ(卵型のタンク)、アース付ステンレスタンク、金でコーティングされた樽と多くの実験的な発酵・熟成容器並ぶ。
「木樽は地球との共鳴に強く。アンフォラは宇宙との共鳴。金を内側に貼った樽は太陽との共鳴を得ることができる。材質の異なる熟成容器で色々な情報をワインに移していく。ブドウ品種で言えばシャルドネは宇宙、ピノ・ノワールは地球的。この情報をしっかり移し、バランスを取る事が重要」
そんなルクレール・ブリアンのシャンパーニュを試飲すると、エルヴェ・ジェスタンの言っていることは嘘ではないなと思うほど、驚くほどピュアで深みがある。ブドウのエネルギーを感じる白眉な一献となっている。
【ブリュット・レゼルヴ】
メゾンのスタンダード・キュヴェ。今回入荷のロットは2019年産100%のヴィンテージ・シャンパーニュ。ピノ・ノワール40%、ピノ・ムニエ40%、シャルドネ20%。ドサージュは太陽と調和するサトウキビの蔗糖を使って4.5g/L。2022年12月デゴルジュマン。濃密な果実味としっかりした酸は大地の滋味を感じ、圧倒的な存在感を醸し出す一献。また毎年新しい事に挑戦するエルヴェの最新の考えが味わえるキュヴェでもある。この価格帯でこのクオリティーは驚くほどコストパフォーマンスに長けている。白/ACシャンパーニュ/ネゴシアン・マニプラン
【試飲】
淑やかで繊細な泡が立ち上がり、柑橘系果実の爽やかな香りと一緒にミネラル、熟した果実の香りを感じる。ミディアムボディの果実味がエレガントに口中に広がっていく。アフターには程よく熟した果実の旨味がしなやかに染み渡り、口中には果実の甘味がいつまでも漂う。そう、凄く延びのあるピュアな果実味。隠し味的にその旨味をしっかりと酸が支えている。価格、クオリティーを考えれば非の打ちどころのない仕上がり。アンドレ・ボーフォールとは一味違うビオシャンパーニュの王道を感じる一献。(2023年11月中旬試飲)