【アタ・ランギ】
今やピノ・ノワールの聖地として知られるニュージーランドのマーティンボロー。そのマーティンボローを銘醸地として世界に知らしめたのがアタ・ランギだ。
マオリ語で「夜明けの空、新たな始まり」を意味するアタ・ランギは1980年にクライヴ・ペイトンと妻のフィル、クライヴの妹アリソンと夫のオリバー・マスターズの4人によって設立された。クライヴ・ペイトンはマーティンボローの町の外れに5haの痩せた牧草地にピノ・ノワールの他、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、シラーを植樹。1984年に初ヴィンテージのレッド・ブレンド、1985年にはピノ・ノワールを少量仕込んだ。マーティンボローは日照積算温度、降水量、土壌がブルゴーニュと似ているという調査研究も発表され、1980年代にワイン産地として急速に興隆発展した。
一躍アタ・ランギの名が世界に知れ渡るようになったのは1995年。毎年11月ロンドンで開催されるインターナショナル・ワイン&スピリッツ・コンペティション(IWSC)でアタ・ランギ・ピノ・ノワールが「最優秀ピノ・ノワール」を受賞。翌1996年にも「最優秀ピノ・ノワール」を2年連続で受賞した。これによりアタ・ランギが位置するニュージーランド北島南端の小さな産地、マーティンボローは世界で注目の的となった。ちなみに2001年のIWSCで3度目の「最優秀ピノ・ノワール」を受賞している。
そしてアタ・ランギを語るとき外すことができないがエイベル・クローン。ニュージーランドの税関職員でブドウ園を所有していたマルコム・エイベル。1970年代フランスから帰国した旅行者がブドウの穂木を持ち込もうとしていた。問い質すとロマネ・コンテイの畑に忍び込み違法に持ち帰ったものだと判明し、没収される。本来ならそこで廃棄処分されるのだが、税関職員だったエイベルは穂木をこっそりと持ち帰り自分のブドウ園に植樹してしまった。これがエイベル・クローンの始まり。エイベルと知り合いだったクライヴ・ペイトンは、エイベル死去後、そのブドウ樹を譲り受けアタ・ランギの畑に移植した。最初の区画に植樹したエイベル・クローンはマーティンボローの冷涼な気候によく適合し、冷涼で不作な年でもきれいな酸と風味を持つブドウを生み出してくれた。現在、アタ・ランギ・ピノ・ノワールの畑の多くは、このエイベル・クローンが中核となっている。
現在、アタ・ランギは計55haの畑からなり、その半分は自社畑と一部リース契約により自社で栽培管理をしている。契約畑の多くは自社畑と同様にシルトに覆われた水はけのよい土壌で、年間降雨量が平均700ミリと少なく、収量は1ha当たり4トンと低収量に抑えられている。マーティンボローとその周辺一帯は、湾から内陸に向かって吹きつける強い風により、春先の開花時期の結実が難しく、他の地域よりも樹1 本あたりの房数が非常に少なく、またブドウの実が風から自己防御するように果皮を厚くし、それが風味を凝縮させるといわれている。栽培は殺虫剤、化学肥料、除草剤などは使用せず、一部でビオディナミを取り入れている。全ての自社畑は2014年にNZのオーガニック認証機関バイオグロ(Bio Gro)の認証を受けている。
アタ・ランギへの称賛は枚挙に暇がないが、近年ではウェリントンで開催されたインターナショナル・ピノ・ノワール2010でアタ・ランギ(とフェルトン・ロード)がマオリ語で「ニュージーランド・ピノ・ノワールにおけるグラン・クリュ/もっとも偉大な成長」と称される「Tipuranga Teitei o Aotearoa」賞を受賞。これは「ニュージーランドで最も偉大なピノ・ノワールワイン」と称賛された様な賞であった。また豪州の有名ワイン雑誌「グルメ・トラベラー・ワイン」でアタ・ランギの醸造責任者、ヘレン・マスターズが「2019年ニュージーランド・ワインメーカー・オブ・ザ・イヤー」に選出された。記憶に新しいところでは2021年に発表された世界最大のワイン検索サイト「ワイン・サーチャー」で「ブルゴーニュ以外で最も検索されているピノ・ノワール・ワインTOP10」にアタ・ランギ・ピノ・ノワールが1位にランクインした。(ちなみにNZでトップ10に入ったのはアタ・ランギとフェルトン・ロード(10位)のみ)。今やアタ・ランギは、ニュージーランドはもちろんのこと世界を代表するピノ・ノワール造り手。その品質はブルゴーニュのグラン・クリュに比肩するほど。
【アタ・ランギ・ピノ・ノワール】
マーティンボロー・テラスの水はけの良い砂利質土壌の自社畑(複数区画)のブドウ(平均樹齢30年)で造られるワイナリーのフラッグシップ。「ワイン・サーチャー」で「ブルゴーニュ以外で最も検索されているピノ・ノワール・ワインTOP10」の1位にランクインしたワイン。
設立当初に植えたホームブロックの畑(複数区画)で造られる。勿論その中にはエイベル・クローンも含まれている。表土から下層1mまで砂利質が多く混じる沖積粘土壌。排水性に優れ、ブドウ樹の根は水分を求め、地中深くまで根を張る。30%全房発酵。5~6日発酵前に低温浸漬。自然酵母で発酵。新樽率35%で11カ月間熟成。その後、区画ごとに醸造したものをブレンドしさらに6カ月熟成。フローラルな芳香が印象的で、活力ある果実と酸が美しいバランスを奏でる。きめ細かなタンニンがストラクチャーを形成し、長い余韻に魅了される。ブルゴーニュの1流ワインに匹敵するクオリティ。生産量は年間約2500本。
【試飲】
ブラックベリー、プルーン、カシスなどを凝縮した黒い果実の香りと冷涼感ある赤い果実の香りを感じる。濃密でいながらエレガントな果実味に程よい酸が見事に調和している。セカンドラベルのクリムゾンを一回り、いや二回り深化させ、旨味を凝縮させた感じだ。スケール感と奥行きの深さはブルゴーニュのグラン・クリュ、またはヴォーヌ・ロマネの傑出したプルミエ・クリュに匹敵するほど。武骨なタンニン、過度の樽香などは皆無。しなやかで、エレガントで、リッチ。時間の経過とともにスケール感は増していく。これぞニュージーランドのグラン・クリュ。翌日飲んでも香りもポテンシャルも落ちることなく、さらに旨くなっていた。まさに高雅な一献。(2021年7月中旬試飲)
★ボブ・キャンベル 98点
★ジェームス・サックリング 98点
★ワインアドヴォケイト 94点
飲み頃:2019~2030年
Ata Rangi's current release, the 2016 Pinot Noir, features hints of sage leaves and minty stemminess, beautifully balanced by plush fruit. It's medium to full-bodied, with silkier tannins than the muscular 2015, giving it a lush, welcoming texture and a smooth, seamless finish redolent of tea and roses. (Wine Advocate Issue 1st Mar 2019)
*ボブ・キャンベル:ニュージーランドを代表するワイン評論家。ニュージーランドで2番目にマスター・オブ・ワインを取得した人物でもある。